2015年08月04日

すみれさんと雨 10

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「雨のいと?」
「そう、この雲の粒が、雨を糸にしてくれるんです。」
男の人はそう言うと光るたまを一つポケットからだして、
すみれさんの手にのせました。
ひやりと冷たいそのたまは、
ガラスの小さなかけらのように見えました。

「雨の糸に、雲の粒。へえ、きれいなものねえ。」
すみれさんが感心してつぶやくと、
男の人はちょっとうれしそうに答えました。

「そう、それは上空一万メートルの高さでできる雲の粒です。
 この冷たいたまが、雨を糸にしてくれるんですよ。」
(なるほど、水たまりからずっと続いていた細い糸は雨の糸だったのね。)

机の後ろには、一人乗り用の自動車が見えました。
大きなタイヤに、ブルーの丸い車体。
前面に並ぶ二つのライトが、目玉のようにピカピカ光っています。

〜つづく
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2015年08月01日

すみれさんと雨 9

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「あの、ここはどこでしょう。」
すみれさんが一番聞きたかった事でした。
「そりゃ、見ての通り、仕立て屋の工場です。」
「それじゃ、あなたは?」
「見ての通り、仕立て屋ですよ。ちょっと特別ですがね。」

たしかに、はさみや針山、定規が机の上に並んでいました。
「仕立て屋さん?なるほど、お忙しそうね。
 …ところで、なにが特別なんです?」

すみれさんの質問に、男の人は
手元の糸を目の前に持ち上げて、見せてくれました。

「それは、雨の日だけ開店している仕立て屋なんですよ。
 ほら。これはね、雨のいとなんです。」

〜つづく
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2015年07月28日

すみれさんと雨 8

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カタカタカタ、コト、カタン。
部屋の中央には、糸をかけた針金が何本もかかっている作業机。
その針金の糸がカタカタ揺れ、机の向こうに
虹色に光る布が波うっています。

揺れている機械からのぞき見えるのは
輝くドレスのすそでした。
そして椅子に座って一人作業をしているのは、
さっき雨の中でみかけた男の人です。

派手な赤いベストにチェックのズボン。
間違いありません。

「こんにちは。」

すみれさんの声に、男の人は
忙しく動かしていた手元からようやく目を離して、
こちらを振り返りました。
「はい?」

〜つづく
posted by suzumikawamura at 14:47| お話 すみれさんと雨 16話 | 更新情報をチェックする